本研究の目的は、中国東北地区をフィールドとして「満洲国」という植民地期以降の社会再編のプロセスを当該地の住民の視点から再構成し、植民地経験と当地の住民のアイデンティティ構成の関連について考察することにある。 この目的にそって今年度行った調査・研究の概要は以下のとおりである。 第一に、北京市では中国社会科学院での関係者へのヒヤリング、および国家図書館での資料収集を行った。 第二に、フィールド調査として、オロチョン族の集住地域での古老への聞き取り調査を重点的に行った。オロチョン族の集住地域は、内モンゴル自治区東北部および黒竜江省北部に散在している。調査地点は、内モンゴル自治区鄂倫春自治旗阿里河鎮および朝陽猟民村(トゥオプクアル)、黒竜江省のジャガダチ、漠河県、塔河県および十八站鄂倫春族郷、黒河市内および新生鄂倫春族郷、遜克県および新鄂鄂倫春族郷と新興鄂倫春族郷である。これらの地域では、植民地期や解放初期の時代を経験した当事者たちへのインタビュー調査を中心に行い、また新生鄂倫春族郷では「嶺上人博物館」での展示内容および展示方針についての関係者への聞きとりもあわせて行った。さらに博物館調査の一環として、莫力達瓦達斡爾族自治旗の「達斡爾民族博物館」でも展示内容等の調査を行った。 調査研究の成果は、以下のような研究論文として発表された。そのなかでは、東北地域における植民地期の記憶の多様な形態についての検討および、衛生や経済の面でも最周縁部にあったオロチョンの人々が、植民地期以降の社会の中で政策的に一定の「近代化」を成し遂げているものの、総体としては地域のなかで再度周縁化されていく点が検討されている。
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