本研究の目的は、中国東北地区をフィールドとして「満洲国」という植民地期以降の社会再編のプロセスを当該地の多様な住民の視点から再構成し、植民地経験と当地の住民のアイデンティティ構成の関連について考察することにある。そのための具体的な調査研究の課題内容として以下の三点を実施している。 (1) 中国東北地区における植民地期以降現在までの通時的歴史資料の収集。 (2) 植民地期に関連する歴史資料館、博物館、記念館等の展示分析。博物館・記念館等の施設は、植民地期の含めた過去の経験の記憶の集積基地となっている。中国東北地区に散在するこれらの施設調査をとおして、多様な地域を取りあげタイポロジーを作成し、そのなかで博物館展示の展示方針や内容の検討を行う。ここから植民地時代にたいする地域的な解釈の共通性と相違が検討できると考える。 (3) 特定地域における植民地期以降の社会変容にかんするエスノグラフィの作成。中国東北社会における多様な住民の視点として、東北地区の少数民族の生活変遷をとりあげ「満洲国」期とそれ以降の生活との連続・不連続について把握する。フィールドワークによって口述資料を収集し、彼らの生活世界からみた社会変容にかんするエスノグラフィを描き出す。 上述の課題を総合するかたちで、東北地区における住民の多元的視点の抽出と分析を試み、多様な視点からの植民地期以降の社会再編プロセスについて考察する。
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