2007年度の研究実績は、下記の5点に集約される。 (1)ヒズブッラーに関するアラビア語原典資料および欧米諸言語による二次資料の収集。2度の現地調査(レバノン、シリア、英国、フランス)を通して、基本的な関係資料を収集するとともに、ヒズブッラーの活動およびそれを取り巻く環境の把握にも努めた。2006年の「レバノン紛争」の結果、民衆の意を実現するための社会運動よりもトップダウンで閉鎖的な政治・軍事組織としてのプラグマティズムがより顕著になったと思われる。 (2)(1)に基づくデータベースのパイロット版の作成。2000年以降のヒズブッラーの言動を時系列的に整理することを試みた。近年インターネットのソースも充実してきており、2005〜2007年の情報は相当数をカバーすることができた。 (3)アラビア語原典資料の翻訳および刊行。ヒズブッラー書記長H・ナスルッラーの思想を紹介するため、特に重要な演説の1つである「勝利演説」を全訳・刊行した。 (4)ヒズブッラーが掲げる「シーア派」が、今日のレバノン社会においていかなる意味を持つのかを精査した。特にレバノン・ナショナリズムとの関係を補助線とすることで、ヒズブッラーが実質的にある種の「政教分離」を行っていることが明らかになった。 (5)ヒズブッラーをはじめとする今日のイスラーム主義運動が提起する「価値」と「世界観」を国際政治という広い文脈でどのように位置づけるか、方法論的な検討を行った。欧米で発展してきた政治学や国際関係学が前提とするウェストファリア的な枠組みを再検討する必要性が明らかにされた。
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