2008年度の研究実績は、下記の4点に集約される。 1. ヒズブッラーに関するアラビア語原典資料および欧米諸言語による二次資料の収集を行った(前年度からの継続)。2度の現地調査(レバノン・シリア、イラン)を通して、同党の広報資料を中心とした基本的な関係資料を収集するとともに、ヒズブッラーの活動およびそれを取り巻く政治状況の把握も努めた。 2. ヒズブッラーの広報資料の収集および現地調査を通して、その政治・社会活動の実態把握を進めた。特に社会活動については、聞き取り調査を中心としたフィールドワークの結果、2006年のレバノン紛争にて壊滅的な打撃を受けたものの、イランからの精神的・物理的支援により急速に再編および拡大が進んでいることが明らかになった。特にレバノン南部地域では、イランとの合弁であることを前面に打ち出した活動が目立つようになった。 3. ヒズブッラーの精神的指導者と言われたM.H.ファドルッラーの役割について、現地調査および原典解析を通して解明した。その結果、今日同氏はヒズブッラーの意志決定にほとんど関与していないことが明らかになった。しかし、このことは同氏とヒズブッラー支持者とのつながりが希薄であることを意味せず、指導部は「抵抗(ムカーワマ)」という最大公約数的な修辞を通して、宗教的・精神的指導者を異にする支持者たちの足並みをそろえる方策を採用してきた。 4. 近年のヒズブッラーの思想と活動の実態把握は、レバノン政治および域内政治のメカニズムを読み解くための大きな鍵になることが明らかになった。具体的には、レバノンとシリアの両国を1つの「政治構造」とする政治分析の枠組みの可能性を提示することになった。
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