本年度はプロジェクト2年目として、関係資料を継続的に集めた。同時に初年度の収集史料を分析し、成果の一部を口頭発表して専門家の意見や評価を仰いだ。 まず、20世紀初頭から1980年代までの時代幅で、カナダの華僑のアイデンティティ形成に関する一次史料と二次資料についての基礎調査を進めた。その結果、夏期の海外調査は、当初予定にあったバンクーバー市立資料館を外し、ビクトリア大学を加えた。そしてブリティッシュコロンビア大学とともに両大学の付属図書館が所蔵する、英中両言語の華僑・華人団体関連資料を調査した。特に1960-70年代の現地華僑団体会員のインタヴュー記録とその周辺資料から、当時の同大学のカナダ人研究者が、冷戦期に華僑に向けられた一般社会の偏見とは断絶した視座で、華僑と信頼と協力体制を築きながら調査し、これが後に華僑のアイデンティティ形成に影響を及ぼしていると結論付けた。「北米華僑」は一括りにできず、アメリカを不可欠の主体とする20世紀の世界史において、カナダとアメリカはそれぞれ別個の姿勢で中国や華僑を位置づけ、その違いが華僑の言説に多大な影響を及ぼしてきたと言える。国外での調査が順調であった一方、東京における資料収集は実現できなかったため、来年度実施する。 前年度に資料収集を終えた1905年反米ボイコット・1911年辛亥革命・1925年孫文の死、これらの事件前後におけるサンフランシスコ華僑の言説や視点の変化については、その分析の成果を、神戸華僑華人研究会第118回例会、京都大学地域研究情報統合センター公募採択テーマ研究会「移動と共生が創り出すミクロ・リージョナリズム」、そして日本移民学会2008年度大会にて口頭発表した。発表に対するフロアからの質問や意見を参考にし、次年度に論文を執筆し、学術雑誌に投稿する。かつ国内での口頭発表を継続し、海外における発表の準備を完了する。
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