本研究は、戦後日本の非農林自営業者層におけるジェンダー間分業の実態変化とその規定要因、および当事者のアイデンティティ構築に迫ろうとするものである。近年、男性を稼ぎ手とする近代家族の歴史的成立について、階層的差異という視点を明確にした実証的な研究が展開している。しかし、これらの階層性を意識した研究において自営業層に対して十分な着目が与えられているとはいいがたい。しかし、戦後日本における人々の労働・生活とジェンダー関係の動態を理解しようとするとき、この層への着目は欠かすことができない。本年度の研究においては、非農林自営業層の労働・生活に対する政策的誘導の変化を明らかにすることに重点をおいた。 本年度は資料調査と聞き取り調査により、戦後の自営業者に対する商工団体の指導活動、研修活動を明確化した。日本の高度成長の過程において、小規模事業者の近代化は政策的課題となり、商工会等の地域経済団体の法制化が行われ、小規模企業者の組織化と経営改善が試みられた。一方、高度成長は小規模事業者の側にも従来の経営スタイルから脱却する必要性をもたらした。この過程で、女性は経営の重要な担い手、特に労務管理の末端管理者として位置づけられ、商工団体による女性向け講習会が盛んに開催されるようになる。 このことから、高度成長の過程において、「家業」のありかたは大きく変化し、女性は家庭を守る「主婦」というよりも、経営に不可欠な家族従業員として位置づける政策的誘導が存在したことが判明した。
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