再生医学は、その産業利用により莫大な経済効果が見込まれることから、近年、国際競争が激化している分野である。再生医学研究の進展のためには卵子や中絶胎児など女性由来組織が研究材料として必要となる。とりわけ、未受精卵を用いた人クローン胚の作成が注目を浴びている。だが、研究用の未受精卵は大量に不足しており、「無償ボランティア提供」の議論が政府の審議会等で浮上したことが注目される。 研究用未受精卵のボランティア提供に関する政府審議会の公式書類を検討した結果、以下のような問題点が明らかとなった。 一点目に、当事者となる若い女性(または彼女たちの利益擁護ができる人物)が不在の場で議論が進行したこと、二点目に、難病家族団体の女性家族がボランティア提供の現実的なターゲットとなっており、これは妻や娘や嫁という立場の彼女たちに対するモラルハラスメントや二重の搾取にあたる可能性があること、三点目に自由意思に基づく提供という建前には現実性がないこと、四点目に産婦人科や不妊治療医師において、卵子提供にともなう女性の負担が軽視されていること、五点目に、ボランティア提供は不妊治療の患者からの提供よりも負担が軽いとされていること、それゆえに倫理的障壁が低いと考えられていること、六点目に研究用の提供と治療用の提供とが混同されていること、七点目に、ボランティア提供にともなう精神的影響は皆無として扱われていること、八点目に、廃棄する、不要であることをもって提供の潜在的可能性があるとするなど、功利主義的な考え方が支配的であること、である。 以上の問題点に加え、研究用未受精卵提供の問題は、昨今の生命倫理学において、受精卵の道徳的地位の問題に比べて倫理的に低く扱われていることについて疑問を呈した。
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