平成19年度の調査において明らかになったことは、マスキュリニティ・クライシスを経験し乗り越えた男性は、ヘゲモニックな男性性の三要素である「権力志向」「所有指向」「優越指向」を維持する形で乗り越えた男性、既存の男性役割とは異なる役割を自身の男性性とすることで乗り越えた男性など、その乗り越え方は多様であったが、共通して「男性」としての役割(=男らしさ)に固執しているということであった。20年度はこの「男性としての役割への固執」をキー概念として、新規インフォーマントへの面接調査およびデータ分析を行った(前年度同様、データ分析作業にあたっては、データ分析→仮説生成→データ分析→仮説生成と、分析と考察を交互に行なうことで精度の向上を図っている)。 その結果、男性としての役割への固執は、やはり多くのインフォーマントに繰り返し現れた。それは、行動規範に「男性」という属性が関与していることを意味している。つまり、「男性だから」という理由である行動をとるということである。こうした意識は一般の男性にもみられるものであるが、クライシスを経験した男性は、男性役割の獲得により意識的であった。 また、今年度は特に新規インフォーマントとして兵役免除者を確保することができ、彼が現在もクライシスの最中にあることが明らかになった。彼は、現代韓国社会において周縁に位置づけられており、中心との距離はなかなか縮まらない。兵役免除は本人の希望ではなく、検査によって決定されるものである。それにも関わらず、免除となった者は「男らしさ」の世界から除外されることになり、中心へと向かう針路を切り開けない状況である。 以上の点にみられるように、韓国の社会的規範としての男性役割の強固さと、男性役割のヘゲモニーの強さを明らかにすることができたことが本研究の最大の意義である。
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