平成22年度は8月までアメリカでの資料収集を行ない、帰国後資料の分析と研究のまとめを行なう予定であったが、アメリカで9/11に関する新しい文献を発見があり、その検討と分析のために一年間研究期間を延長した。その結果、テロや事件の表象においては、国家と国民アイデンティティとジェンダーとが深くつながっていることが明らかになった。これは、9/11という一つの事由に限らず、共同体の危機が認識されるときに重要な概念であり、その検証にあたって現代日本人にとっての危機の出発点として明治維新と第二次世界大戦を文学的に考察する必要が浮かび上がってきた。そこで、まず近代における「日本人」の概念が作り上げられた明治時代に焦点を当て、この時代の文学作品において「日本人性」が以下に表象されたかを見た。文献資料としては田山花袋の小説『蒲団』と、谷崎潤一郎の小説『痴人の愛』などを用い、本田和子の『女学生の系譜』を資料に、明治時代に欲望のまなざしをもって描かれた女学生の造形に、日本国家のアイデンティティがどのように映し出されているかを分析し、国際基督教大学ジェンダー研究センター学術誌『Gender and Sexuality』第7巻に発表した(2012年3月)。残念ながら秋以降、体調が悪く、研究を完成させて出版に至ることはできなかったが、本課題終了後も出版を目指して継続研究していく。
|