本研究は、スポーツ参加・達成における女性間の差異とその差異を生み出す社会的要因・過程を明らかにすることを目的とし、日本・米国・豪州の三か国においてプロとして活動する女子サーフィン選手へのフィールドワークから比較分析を行なった。サーフィンを対象とした理由は、サブカルチャーとして看過されてきたマイナースポーツは、女性が参加するための環境が十分には整備されておらず、女性間の差異がさらに先鋭化したかたちで表出する場だからである。データの収集は、参与観察法、インタビュー、文献・記録収集によって行ない、女子選手のキャリアをてがかりに、現状でみられる選手間の差異を把握、そしてその背景要因となる部分を抽出するという形で分析した。 その結果、女子選手のスポーツ参加・達成は、豪州で最も高く、次いで、米国、日本の順となることがわかった。キャリアの差、参加・達成度を生み出す社会的要因は、以下の三つがあげられる。ひとつめはサーフィンというスポーツ文化の地域浸透度の違い、ふたつめは地域ごとのスポーツ・教育におけるジェンダー体制の違い、そして地域ごとのサーフィン文化におけるジェンダー体制の違いである。スポーツを政策として積極的に取り入れ、スポーツ参与率が男女ともに高い数値を示す豪州が、各地域の女性の比較においても最もスポーツ参加・達成度が高くなっていた。このことは、すべての選手の努力が公平に報われ、結果の平等が達成されるためには、一選手の努力だけでなく、制度上の変革が必要なことを示唆している。 この研究は、グローバル化の中で格差が拡大する社会構造の中で、複雑さを増す女性間の権力関係を詳細に描き出し、スポーツに関わる女性の研究領域に女性間の差異という視点を持ち込み、またサーフィンという先行研究が極めて少ない対象を主題化したことで、スポーツのジェンダー研究に新しい視座を提供している。
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