本研究は、アメリカ占領下日本における「女性解放」政策の歴史的意義を再評価することを目的としている。そのため、民法や戸籍法をはじめ優生保護法など、家族に関する諸法律に関する日本政府関係資料およびGHQ/SCAP側の資料を調査・収集した。日本側政府資料として、国立公文書館所蔵の閣議録、国立国会図書館憲政資料室所蔵の「入江俊郎文書」中の「臨時法制調査会関係資料」を調査した。またアメリカ側の資料としては、同資料室所蔵の「マッカーサー文書」および「GHQ/SCAP資料」を調査、収集した。この調査の過程のなかで、これまでの研究が看過してきたマーガレット・サンガーの来日禁止をめぐって、占領下で激しい議論が交わされていることが明らかになった。サンガーは1920年代以降のアメリカにおいて産児制限運動を提唱しており、戦前には来日も果たしている。産児制限は、人口問題や宗教的な関心(主にカトリックという圧力団体)などが複雑に絡み合っており、マッカーサーは結局、彼女の来日を許可しなかった。 そこでサンガーの来日禁止事件に関して、関西大学図書館所蔵の「マーガレット・サンガー文書」(スミス大学のソファイアコレクション中の同文書をマイクロフィルム化したもの)を追加的に収集し、調査分析した。その結果、家族や婚姻、さらには生殖・出産に対する政策は、優生思想に基づくものだけでなく、戦後の人口爆発をうけて人口抑制政策の一環として、日本の工業化との関連からも考察する必要性が明らかになった。次年度以降は、人口政策と性・生殖のコントロールという観点から家族政策を考察する予定である。
|