本研究の目的は、アメリカ占領下の日本における「女性解放」政策の歴史的意義を再評価することにある。特に、家族と生殖に関する諸法律や政策を検討することによって、占領下でどのような「家族」イデオロギーが規定されていったのかを検討している。本年度は、アメリカの産児制限運動家であるマーガレット・サンガーの来日禁止をめぐって占領下で激しい議論が見られたことを中心に、それを占領下の人口政策全体の中で位置づける作業を行った。具体的には、国立国会図書館憲政資料室所蔵の「マッカーサー文書」および「GHQ/SCAP文書」を調査、収集するとともに、関西大学図書館所蔵の「マーガレット・サンガー文書」を調査した。こうした調査結果は、7月に行われた10th International Interdisciplinary Congress on Women等において口頭で報告し、そこでの議論を踏まえて、『関西大学人権問題研究室紀要』に論文として発表した。論文中では、バースコントロールという私的であるはず行為が、政府によって公的なものとされていった過程や、さらにそれを占領軍やアメリカ側が支持し援助していたのにもかかわらず、公表することを執拗に避ける方針が採られたことを明らかにした。これらのことは、占領下における人口政策を背景にして、性や生殖のコントロールが推進されたことを意味する。そのことは、とりもなおさずどのような家族が理想像として規定されていったのかを明らかにするだろう。
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