本研究は、カント『純粋理性批判』のなかの「超越論的弁証論」に関して、その三つの特殊形而上学のテーマ(心理学を批判する誤謬推理論、宇宙論を批判するアンチノミー論、神学を批判する理想論)の諸問題を解明するとともに、弁証論全体の方法論的本質を明らかにすることをめざしている。 19年度は、前者の個別的なテーマの諸問題に関して、基礎的・準備的な研究をすすめた。 とりわけ、「神の存在証明」を批判する「理想論」を箇所を、存在論的な観点から解読するとともに、そこにこめられたカントの仮象批判の戦略を解明する作業にあてられた。また「神の存在証明」をめぐっては、前批判期から『純粋理性批判』にいたる発展史的な研究も作業中である。なお、このテーマに関しては今後さらに研究を進めて、20年度中に研究論文として発表する予定である。 アンチノミー論に関しては、その第三アンチノミーにおける「自由」の問題について、「理性と普遍性-カントにおける道徳の根拠をめぐって」(仮題、近刊予定)において倫理学的な観点から解明をこころみ、また「根拠」をめぐるカント哲学的思考様式に若干の見通しをつけたところである。 訳と解題を発表した「ゲッティンゲン書評」は、『純粋理性批判』を「観念論」だと批判して、カントをして「第四誤謬推理」の全面改訂と「観念論論駁」の執筆へと駆り立てたものであり、誤謬推理論の研究の基礎資料となるものである。共著書に寄稿した「カントの空間論・序説-身体・開闢・感情」(『形と空間のなかの私』)なども足掛かりにして、今後、観念論の問題にさらに迫っていきたいと思っている。
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