本研究は、誤謬推理論/アンチノミー論/理想論についての個別的な研究と、弁証論全体の方法論に関する研究とからなるが、20年度は、前年度からひきつづき個別的なテーマに関する研究が中心となった。 理想論については、とくに宇宙論的証明に対する批判に焦点をあわせて解明を試み、「神の現存在の宇宙論的証明に対するカントの批判について」と題して口頭発表し、カント研究者諸氏からコメントを寄せてもらった。この発表は、カントの理想論、とりわけ宇宙論的証明批判のもつ弁証論的理性批判としての方法論的意義を明らかにしつつ、そこに託されたカントの新たな存在論構想への転回を展望したものである。この成果をさらに発展史的知見で充実させ、論文Fとして仕上げることが21年度の課題となる。 アンチノミー論については、とくに第三の自由アンチノミーがテーマであったが、『岩波講座哲学06モラル/行為の哲学』所収の「理性と普遍性-カントにおける道徳の根拠をめぐって」において、自由アンチノミーについて、その行為論的な射程を示し、倫理的含意を解明することによって、その思想構造に関して一定の見通しを得たところである。 誤謬推理論については、とくに第四誤謬推理(観念論批判)に関して、『人文学の生まれるところ』所収の「哲学-観念論とはなんだったのか? 」において、カントの観念論と観念論批判の意味について、原理的な観点から論及を試みた。これに文献的な裏付けを与え、カント研究として結実させることが今後の課題である。 20年度の研究では、弁証論の個別テーマに関して一定の解明が進められたが、なお発展史的な文献の裏付けなどに課題を残すところもあり、21年度の研究に期するものである。
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