本研究は、カント『純粋理性批判』の超越論的弁証論に関して、心理学・宇宙論・神学の三つの形而上学批判の諸相を解明し、さらに弁証論をつらぬく理性批判の方法論的意義を明らかにしようとするものである。 本年度は理想論(神学)に関する研究をとりまとめ、論文「神の現存在め宇宙論的証明に対するカントの批判について」として発表することができた。これはカントの宇宙論的証明批判を、第四アンチノミーなどとも関わる弁証論の文脈におきいれて理解し、弁証論的理性に対する批判として読み解くものである。このような批判をとおして存在論的なユートピアを解体し、分析論における新たな様相論へと展開していく批判哲学の軌跡を、描きだすことができた。カントの弁証論の方法論的意義に関しても、この研究によって一定の見通しを得たところである。 さらに、弁証論研究の射程を『実践理性批判』の弁証論にまでひろげ、実践理性における徳と幸福のアンチノミーを考察し、その成果をカント協会でのシンポジウムで「カントにおける幸福のパラドクス-幸福主義批判と最高善とのあいだ」と題して発表した(これは『日本カント研究』(近刊)に収録)。このような実践的な弁証論もまた、カントの弁証論を総合的に理解するためには欠かせない観点であろう。 誤謬推理論における観念論の問題についても研究を進めているが、これは22年度からの科研費「近代哲学史のなかのカント理論哲学-対話的哲学史の試み」でも継続し、デカルト対カントという観点から研究をまとめる予定である。 今後とも、弁証論研究を続行し、弁証論に関わるこれまでの拙論をとりまとめ、さらにはあらたに数本の論文を発表し、最終的には弁証論に関する単著として刊行する所存である。
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