研究概要 |
全体的成果 : 13世紀のトマス・アクィナスの徳の理論において, アリストテレス, ギリシャ教父, ラテン教父, ストア派などの思想や概念がどのように位置づけられ生かされているかを, テキストに即して, ある程度明らかにすることができた。前年度の研究を基礎にし, 下記の視点を加えて研究領域を広げた。 1、東方修道制の歴史における悪徳の議論とラテン中世におけるその受容。東西教会の徳と悪徳のとらえ方の違い, 理論と実践の関係などを, 教父やスコラ哲学者の議論に基づいて研究した。七つの根源的悪徳(いわゆる七つの大罪)に関して, 特に「倦怠(アケーディア)」をめぐる思想史の流れを整理し, トマス・アクィナスの理論の独自性を考察した。 2、トマスの実践知に関する理論を, 徳と知の関係という問題の脈絡で考察した。アリストテレスの枠組みと課題を下敷きにした「思慮」「直知」に関する理論に, 思想史的由来の異なる「良知」というアイディアがどのように合流しているかを調べ, 「prudentia, intellectus, synderesis--トマス倫理学における徳と知」と題した研究発表をおこなった。 3、「高邁megalopsychia=magnanimitas」について。アリストテレスがポリス市民の徳として重視したこの美徳に, トマスがどのような位置づけを与えたかを考察した。特に, 中世キリスト教思想で重んじられる「謙遜」との関係に着目して, 「「高邁」の徳--古代から中世へ」と題した研究発表をおこなった。
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