研究概要 |
アリストテレスが『ニコマコス倫理学』で論じている「高邁」と呼ばれる徳は,キケロやセネカもやはり重んじた徳目だった。論文「トマスにおける《高邁》magnanimitasの位置づけ」(『南山神学』33号,2010年3月)において,高邁という「古代的」な徳がキリスト教倫理思想の中にどのように取り入れられているかを論じた。第一に,トマスが高邁を勇気の部分と見なす意味をアリストテレスとの比較によって明らかにした。第二に,この問題を古代ギリシャ以来の枢要徳に関する思想系譜を背景にして検討し,気概(トマスの言葉遣いでは「怒りの力」)の重要性を指摘した。第三に,一見対立するように思われる高邁と謙遜という二つの徳がトマスの徳の見取り図の中では共存していることを詳しく考察した。 今年度の研究成果としては上記の論文に加え,研究会における二回の発表と討論によって,研究課題について考え直す機会をもつことができたことが有意義だった。また,トマス・アクィナス『神学大全』第12部-2,123-140問題(勇気についての箇所)の翻訳をおこない,これが創文社から『神学大全』第21巻として刊行予定である。トマスにおけるストア派的要素という論点については,R. Sorabji, Emotion and peace of mind: From Stoic agitation to Christian temptation. Oxford UP, 2000など重要な研究書を検討しながら研究を進めた。さらに,この論点と関連して,中世哲学会におけるシンポジウム「中世哲学とストア派倫理学」を企画し,次回大会においては,トマスにおけるストア派倫理思想の受容と変容をあっかう研究発表に参加する予定である.
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