討議倫理学の応用可能性に関する研究を進めるために、本年(平成22年)度の研究実施計画に従い、以下のように研究を行った。 1.最終年度である本年度は、前年度まで行った従来の討議倫理学の分析・検討を踏まえて、「具体的な問題状況における討議の現実的不可能性」という「適用問題」に答えるために、新たな討議倫理学の構想を検討した。まず、従来のアプローチは主に「公共的討議」に基づくために、「具体的な問題状況における討議の現実的不可能性」に答えることが困難なことを示し、新たなアプローチとして「私的討議」に基づく討議倫理学を構想した。そして、「私的討議」と「公共的討議」の違いは本質的ではなく、程度の違いにすぎないことを示し、「自己内対話としての私的討議」によって、先の「適用問題」に答えることができるかどうかを考察した。この成果の一部を「討議倫理学の限界?-G・シェーンリッヒの討議倫理学批判について-」として公刊した。 2.日独国際シンポジウム「尊厳と価値」(南山大学)に参加し、特に、ドイツの討議倫理学者であるM・ケトナー博士と意見交換を行った。更に、上記の新たなアプローチに関して、W・クールマン博士にドイツでインタビューを行った。 3.批判的社会理論研究会に参加し、討議倫理学に関わる研究者との意見交換を行った。
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