本研究の課題はヌスバウムが示唆するようにグロティウス流の自然法論は正義論の道徳的基礎として適切だと言えるのかを明らかにすることである。ヌスバウムは近著『正義のフロンティア』のなかで、正義論の道徳的基礎としてロールズ流の契約論を批判し、トマス・スキャンロン流の契約論と彼女のケイパビリティ・アプローチの収斂可能性を指摘したうえで、この新たな道徳的基礎のさらなる発展形態としてグロティウス流の自然法論に言及している。だが、もし、契約論の発展形態が自然法論であるならば、われわれは倫理学の流れを逆行することになるのではないだろうか。本研究は、契約論、ケイパビリティ・アプローチ、自然法論の関連を明らかにしながら、自然法論は正義論の道徳的基礎として適切であるのかについて考察するものである。 本研究の期間は三年を予定しているが、平成19年度にはヌスバウムの『正義のフロンティア』の精読をすすめることができた。また、9月にはアメリカ・ニューヨークのNew School for Social Researchで開催された「人間開発とケイパビリティ・アプローチ国際学会」に資料収集のため参加することができた(本学会の現会長はヌスバウムである)。さらに、10月には新潟大学で開催された日本倫理学会で「正義の道徳的基礎としてのケイパビリティ・アプローチ-ヌスバウムによる契約論との比較とその検討」と題した研究成果の発表をおこなうことができた。
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