本研究の課題は、ヌスバウムが示唆するようにグロティウス流の自然法論が正義論の道徳的基礎として適切だと言えるのかについて考察することである。本年度においては、ヌスバウムの近著Frontiers of Justiceを精読し、その翻訳を進めた。また、グロティウスと自然法の関連文献の精読を進めた。 平成20年6月には、オーストラリアのメルボルンで開催されたSecond Biennial Conference of lnternational Global Ethics Association(テーマは"Questioning Cosmopolitanism?")に一般参加し、多くの知見を得た。また、平成21年2月には、ヨーロッパにおけるグロティウスの位置づけを学ぶために、オランダを訪問し、オランダ東インド会社の跡地を訪問し、また、ユトレヒト大学図書館、ユトレヒト市図書館、ライデン大学図書館にて資料収集をおこなった。平成20年7月には、韓国のソウル大学で開催されたWorld Congress of Philosophyにて、"Can Nussbaum's Capability Approach be a Foundation of Politically Liberal Global Justice?"というタイトルの報告をおこなった。 総じて、本年度の研究成果として、自然法論にはある種の説得力があるものの、ヨーロッパに特有の精神的背景があるため、グローバルでデモクラティックな規範の源泉としては問題を抱えているということが明らかとなった。
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