本年度(19年度)に行った研究実績とその内容は次の通りである。・本研究は、東アジアにおける「家」及びそれに付随する諸概念について検討することを目的としている。本年は特に主なテーマとして、「東アジア的宗族規範」に対する「キリスト教的規範」の影響を題材に取り上げた。まず、「東アジア的宗族」について考えるため、東アジアの文化的枠組みを特徴づける「仏教」と「儒教」の歴史的思想背景について考察を行った。その成果が『竹窓随筆』(訳注)である。これは、明末における僧侶が「儒教と仏教」について考察した資料に即して、当時の様々な思想的問題をすくい上げようとしたものである。この資料の中には、「家」(仏教では「出家」「在家」が大きな問題として横たわっていることが分かる)に関する当時の議論が色濃く反映されており、本テーマを考察する上で、大変有益な作業であったと言える。また、後者の「キリスト教的規範」については、その「西欧的諸概念」が東アジアに伝来した後、どのような影響を与え、どのような問題を引き起こしたのかについて考察した。これに関しては、論文「台湾におけるカトリック・キリスト教信者の宗教意識に関する一考察(一)-祖先祭祀をめぐる問題-」を作成し、16世紀末に東アジアに伝来したキリスト教が現在に至るまでどのような影響を与え、それらがどのような形で問題として引き継がれているのかを考察した。台湾を取り上げた理由としては、台湾は道教や仏教をはじめとする「宗教的雰囲気」が濃密な地域特性もあり、そこにキリスト教がどのような形で伝えられているのかが、「東アジア」を考える上で最も好適であったからである。その他にも、中国大陸における各種の宗教活動に関する研究が盛ん且つ自由に行われており、資料の収集にも至便だからである。そのほか、学会発表ではないが、研究会レベルでの発表は行っており、所属機関主催の研究発表会では、台湾におけるキリスト教の実態について映像を交えた報告を行った。また、近隣の九州大学で開催されている研究輪読会には継続して参加している。(以上が今年度の主な活動状況である)
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