本年度(20年度)に行った研究実績とその内容は、昨年に引き続いて、東アジアにおける儒教規範及びそれに付随する諸概念について検討することを旧的とした。本年は特に主なテーマとして、「東アジア的宗族規範」に対する「キリスト教的規範」の影響を題材に取り上げたが、調査、研究の過程で様々な研究課題が出来したため、当初のテーマを補強する形で、現代(特に台湾)におけるキリスト教思想の影響についても考察することとした。その成果が、論文「台湾におけるカトリック・キリスト教信者の宗教意識に関する三考察(二)-「天后聖母」について-」である。これは台湾におけるキリスト教信者の現地での聞き取り調査の際、教会内に「天后聖母」と示された「聖母マリアの像」を発見し、その称号の由来やその称号が意味することについて考察したものである。従来、「天后聖母」とは道教の女神である「媽祖」に付される称号であるが、この称号が「聖母マリア」に付されていることから、何が読みとれるのか。この点について現地での聞き取り調査および様々な研究成果と知見を援用し、そこに読みとれる「宗教意識」について仮説を提示した。また、この論文では附論として前号に引き続き「祖先祭祀」に関する資料を訳出した。 また、これ以外に学会での発表として、16世紀末に東アジアに伝来したキリスト教が、それ以後の東アジアにどのような形態、ルートで伝来し、どのような影響を与えたのか、更には、それらがどのような形で問題として引き継がれたのかについて発表を行った。これは本テーマにも深く関わる問題であり、特に「天」というものの捉え方(観念)が、カトリック・キリスト教のイエズス会士によってどのように伝えられ、紹介されたのか、それらを東アジアの人々がどのように受け取ったのかについて、当時の資料に即して、明らかにしたものである。この発表については、今後まとまった形で発表する予定である。この他、近隣の九州大学で開催されている研究輪読会には継続して参加している。(以上が今年度の主な活動状況である)
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