本年度(22年度)に行った研究実績とその内容は、昨年までの研究に引き続いて、東アジアにおける儒教規範及びそれに付随する諸概念に対するキリスト教(思想)の影響についての検討である。本年は特に主なテーマとして、台湾及び韓国での状況について、調査・研究を行った。特に、韓国における調査・研究の結果は「韓国"西学"関連探訪記」(『北九州工業高等専門学校研究報告』第44号)において発表している。これは東アジアの中でもキリスト教徒の人口比率が最も高い韓国において、キリスト教がどのように意識されているのか。また、歴史的な評価・関連についてはどのような認識があるのかについて、韓国における所謂「西学」をキーワードに取り上げたものである。その結果、中国や台湾でのキリスト教が16世紀に始まる宣教師の活動とは連続していないと考えられるのに対して、韓国のそれは、その連続性が非常に強く意識されていることが判明した。このような調査・分析結果を踏まえて、台湾等における調査と併せて、23年度に本テーマの総括的報告として発表する予定である。 これら以外に学会での発表として、16世紀末にカトリック・キリスト教のイエズス会士によって伝えられたキリスト教(当時のヨーロッパ)における「宇宙観」(世界観、天下観)が、どのように紹介され、受け取られたのか、について当時の資料に即して発表を行った(日本中国学会)。その際、イエズス会士の著作がまとめられている叢書『天学初函』に納められている『職方外紀』の分類箇所に対する評価から、必ずしもイエズス会士が伝えようとした「宇宙観」が理解されておらず、東アジアとの思想的文化的基盤に大きな溝が存在していたであろうことを指摘した。 この他、明末中国における「宗族」について考えるため、九州大学で開催されている研究輪読会には継続して参加している。その成果が「〓豁渠『南詢録』訳注(二)」(『活水日文』現代日本文化学会編、第52巻)である。
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