平成19年度は、袋中蒐集一切経の調査、及び目録の作成を中心に行った。 袋中蒐集一切経調査については、海外では、大英図書館(ロンドン)と中国国家図書館(北京)、国体では、お茶の水図書館と念仏寺を調査した。その結果、各経典の蔵書印や奥書等から、袋中蒐集一切経の特徴の再確認ができ、またそれらの来歴が少しずつ明らかとなってきた。一切経の購入先として文献にも載る京都府の浄瑠璃寺の他、奈良県の金峯山寺などが取得先として確認できた。その他、先行研究から、奈良県にあった太官大寺・中臣寺、京都府にある円覚寺が袋中の一切経取得先として知られている。以上から、袋中が、山城国と大和国を中心に一切経を求めてまわった姿が見えてきた。念仏寺の比較的近辺で一切経を入手したと考えられる。当時畿内に古写経が多く存在していたことが、それを可能にさせた要医であろう。 袋中蒐集一切経目録の作成については、実見済みの一切経のみならず、各機関の目録・図録等を精査し、合計写経140巻・版経38巻の目録を作成することができた。現存袋中蒐集一切経のデータを一覧表にし比較可能することで、袋中がどこからどの程度の数の経典を入手したかなどが容易にわかるようになる。 上記二点以外に、袋中蒐集一切経中の古写経の本文分析も開始した。念仏寺所蔵『五母子経』に関して諸本と比較を行っている。現在は『大正新脩大蔵経』所収の同経との校勘作業中である。念仏寺蔵『過去現在因果経』についても校勘作業を行う予定であるが、念仏寺本は五巻本であることが調査でわかった。 経録中では四巻本の記載が主であるが、日本古写経においては、聖語蔵本・中尊寺本・興聖寺本・西方寺本が五巻本であることが知られており、念仏寺本はそれらと同系統である。同じく奈良朝写経である聖語蔵本との比較が重要であることを認識した。
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