現存する袋中蒐集一切経の内、今年度は、アメリカ・カリフォルニア大学バークレー校東アジア図書館、台湾・国家図書館及び国立中央図書館台湾分館、奈良・阪本龍門文庫、大阪・四天王寺大学図書館恩頼堂文庫、京都・京都府立総合資料館、東京・大束急記念文庫、宮城・東北大学附属図書館の所蔵分を調査した。蔵書印・奥書などか照袋中が蒐集する以前の所蔵元はどこであったのか、その来歴を昨年度に引き続き更に検討した。その結果、現存する袋中蒐集一切経には、袋中の伝記に記されるように本来浄瑠璃寺蔵経であったものも確かに存在するが、奈良県吉野の金峯山寺一切経であった経典が比較的多いことがわかった。しかし、金峯山寺一切経を蒐集したという事実は、伝記や文書などには明記されていない。袋中の弟子たちが蒐集に関わっているので、それらは弟子の蒐集である可能性がある。東北大学附属図書館所蔵『幻士仁賢経』には、巻末に金峯山寺一切経を完成させたとされる静厳の奥書があり、紙背に黒印が押されてある。その黒印は、『大谷大学図書館所蔵貴重書善本図録』が金峯山寺一切経の印とする宝塔黒印とは異なるものであった。金峯山寺一切経には二種類の蔵書印があったのか、今後解明を目指す必要がある。 二年間で、現存が確認できる袋中蒐集一切経の内、約3割の調査を終えた。調査分を整理し袋中蒐集一切経のデータ作成を行っている。未調査分の調査と分析、更に一切経蒐集が袋中の生涯に与えた影響などの研究が今後の課題である。
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