最終年度においては、「平成21年度科学研究費補助金交付申請書」に基づき研究を実施し、本研究プロジェクトの総括・纏めを行った。今回は、生命倫理諸問題の中から、具体的なテーマとして「脳死・臓器移植」を取り上げ、それに対するドイツ福音教会の立場を分析し、「脳死・臓器移植」問題をめぐる論議の中での同教会の役割についての調査も行った。具体的には、ドイツ福音教会が教会として取った公式見解を検討し、「脳死」というコンセプト、臓器提供、臓器摘出、移植手術を受けること等に関する教会の論証のありかたを分析した。移植医療を肯定的に評価するに至るまでに、いかなる論証が行われ、キリスト教の教義及び聖書がどのように解釈し直されたのか、また、それに伴って、福音教会の立場が、現在に至るまでに、いかに発展してきたのかという点についても考察した。さらに、その分析結果に比較的視点を加え、かつ、本テーマに関して日独両国における当問題に携わる研究者に新たな視点を提供しうるという確信の元に、日本仏教(曹洞宗)の同テーマに関する態度表明の独語訳を作成した。というのも、本研究プロジェクトの今後の更なる発展の方向性の一つとして、日本の生命倫理論議にみられる仏教および仏教系宗教団体の立場と役割を明らかにし、それを本研究プロジェクトの成果と照らし合わせる比較宗教的研究が考えられ、それによって、今回のテーマであるドイツにおけるキリスト教的生命倫理の特徴が、自ずと浮き彫りにされると考えるからである。最後に、本研究プロジェクトの成果に、研究代表者の本研究テーマに関わる主な論文を加え、それを改訂・加筆して、研究成果報告書に纏め、国内外の研究者に提供した。
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