研究概要 |
本研究は、福音書に記録されたナザレのイエスの具体的な活動が、教父の哲学的思索によっていかに抽象化・概念化され、その身体的行為による効果というプラグマティックな要素を喪失していったのか、そのプロセスを明らかにすることを目指しているが、今年度は生態心理学的観点からの福音書の分析とアウグスティヌスを中心とした教父哲学における「内観」および「行為」の検討に費やされた。いずれの発表や論文においても、現代のアクチュアルな議論を福音書や教父哲学の読解に接続できることを具体的に示すことに成功したように思う。詳細は以下の通りである。1.J.F.リオタールのConfession d'Augustin (Galilee,1998)の翻訳を開始し、それと関連して7月には、小林康夫教授(東京大学)のゼミで、アウグスティヌスの「内観」と「時間」に関するレクチャーを行った。2.昨年度から継続している近代的人間観・世界観を批判的に検討するdisposition研究会の成果として、イエスの人々への「接近」という行為に着目した論文を執筆し、また当研究会の論文集の監修を務めた(2008年4月刊行予定)。3.教父哲学における「内観」と「行為」に関する研究発表を、8月には信原幸弘教授(東京大学)の研究会にて、9月には東方キリスト教学会のシンポジウムにて行った。この内容は論文としてまとめられ、東方キリスト教学会の学会誌『エイコーン』第36号に掲載された。4.11月には中世哲学会において、ウィトゲンシュタインを媒介にアウグスティヌスの言語論を再検討する研究発表を行い、彼の言語理解をパフォーマティヴな効果という観点から読解する可能性を示した。この内容も、論文としてまとめられ『中世思想研究』第50号に掲載予定だが、採否は4月以降に判明する。5.12月には、舞踏家、大野一雄のシンポジウム(明治学院大学主催)にパネリストとして参加し、イエスのパフォーマンスをアフォーダンス理論によって解読する発表を行った。この内容は、当大学の紀要『言語文化』第25号に掲載される。
|