本研究は、福音書に記録されたナザレのイエスの具体的な活動が、教父の哲学的思索においていかに抽象化・概念化され、その身体的行為による効果という要素を喪失していったのか、そのプロセスを明らかにすることを目指しており、そのために福音書読解に対する生態心理学の応用可能性などを検討してきた。 今年度は、生態心理学を理論的基盤に置いた新たな二つの基盤研究(B)(課題番号:21320003、21320010)が始まり、研究代表者はその分担者も兼任しているため、研究自体はそれらの研究プロジェクトと重複するかたちで、しかしより多くの専門家と内容を共有し批判や指導を仰げるという充実した体制で進めることができた。これらの基盤研究は、本研究が勉強会や最終年度のシンポジウムとして計画していたものが発展し、より積極的かつ継続的な形をなしたものと言え、代表者・分担者には、本研究がシンポジウムのパネリストとして計画していた染谷昌義氏や佐々木正人氏が含まれている。具体的には、まず4月に基盤研究(B)(課題番号:21320010)の準備として開催されていた、立教大学の河野哲也教授主催の定例研究会にて、福音書のイエスの活動を具体例に、生態心理学者ロジャー・バーカーの「行動セッティング」を用いた社会的力の直接知覚に関する研究発表を行い、早稲田大学の三嶋憲一教授をはじめ専門家から様々なコメントを頂いた。この内容の一部は、年度末3月に紀要『南山神学』第33号に「カリス=借金帳消しのリアリズム:福音書への生態心理学的アプローチ」としてまとめられた。また、教父のテキストの読解に基づくイエスの身体的行為の抽象化プロセスについては未だ活字化されていないが、調査は進められており、平成22年度内にはこれらの内容を含めたイエスの身体に関する論稿が書籍として上梓される予定になっている(NTT出版において既に企画が通っている)。その他としては、自身の研究を公開するHPを作成した。
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