本研究は、福音書と初期キリスト教の神学テキストを、現代哲学および生態心理学や脳神経科学など経験科学の成果を援用しつつ分析し、「隣人愛」「自己無化」「回心」といった抽象的な神学的概念の元にある経験を、身体的行為という観点から再構成するものであった。その結果、キリスト教の主要概念である「隣人愛」は接近という行為とその行為によって喚起される情動とのカップリングであることが明らかになり、また、イエスがもたらした「回心」の経験とは、イエスによって赦された人間の単なる内面的な経験に尽きるものではなく、その人間が生きる具体的な環境の再編成であることが明らかになった。以上のような本研究全体を通じて、宗教的テキスト、とりわけ聖書の読解に経験科学を応用する意義が示されたとも言える。
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