本年度は研究計画に基づいて昨年に引き続き20世紀初頭の「生物/無生物」概念の編成・形成に関わるものと考えられる文献を総覧的に選び出す作業をおこなった。その際、基幹的文献資料に設定した枠組み、(1)生命科学者による「生物/無生物」に関する思考、(2)哲学者による「生物/無生物」に関する思考、(3)生命科学研究の領域における「生物/無生物」概念を定義する言説、(4)生命科学により「生物/無生物」に関する定義についての社会科学的分析および批評、に基本的に変更はなかった。(1)については従来の生物学文献に加えて、関連の分析として、マリー・キュリーを中心とした物理学関係資料も分析した。(2)および(4)については、現代における視覚表象と物質論をめぐる哲学的考察へつながる思考の潮流も、新たに対象に取り入れた。本年度特に明らかになったものとしては、当該時期の、科学者の思考における「擬人的思考(アンソロポモルフィスム)」の働きと、哲学者の思考における啓蒙主義・科学主義的批判の遂行とを、分析・比較することの重要性を強調したい。科学者と哲学者の思考様式に内在する方法論の比較、そしてそこにおける逆説性や利便的矛盾といったものを考察することは、ここに発生している人間主義と非人間主義のねじれとそれが20世紀と今日に残した思想史的功罪を理解するために不可欠な作業である。この作業は来年度に受け継がれる本研究の最重要課題と考えている。
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