本年度も、研究計画に基づき、昨年に引き続いて20世紀初頭の「生物/無生物」概念の編成・形成に関わるものと考えられる文献を総覧的に選び出す作業をおこなった。基幹的文献資料の枠組みである以下の4点はそのまま保持した。すなわち、(1)生命科学者による「生物/無生物」に関する思考、(2)哲学者による「生物/無生物」に関する思考、(3)生命科学研究の領域における「生物/無生物」概念を定義する言説、(4)生命科学により「生物/無生物」に関する定義についての社会科学的分析および批評、である。(1)については、本年は特に、1940年代から1950年代にかけての光物理学と生物学の接合と分離に注目して考察した。(2)および(4)については、身体論的イメージとしての「生物」「無生物」の概念が、人文学的思考に与えた影響に着目した。また、それが(3)の領域に逆照射された痕跡の確認にも努めたが、これは次年度に残された課題でもある。本年度の作業を通じて、思考の一形式としての身体論的イメージが、物理学と生物学の接合と、ここからの生命科学の展開とにおいて、いかに作用したか、という主題を考察した。公表は次年度になるが、その原点となる事例として、19世紀の生物理化学者パストゥールの言説を分析する論文も執筆した。
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