1、イスラエルのヘブライ大学およびハイファ大学で、資料収集および研究交流をおこなった。ヘブライ大学では、主に、イスラエル建国前にパレスチナ人との共存一国家運動を展開した元学長ユダ・マグネスに関連する文書を収集した。またハイファ大学では、現在のイスラエルや周辺アラブ諸国における民族問題や、それらの国家の形成史に詳しいカイス・フィッロ教授と研究ミーティングをもった。 2、上記のカイス・フィッロ教授を日本に招き、個人的にミーティングをもつとともに、イスラエル/パレスチナ問題や民族紛争などを専門とする国内の第一線の研究者らをコメンテーターとして交えて、複数ワークショップを開催した。イスラエルを中心に、中東地域における民族紛争の歴史と現在に関して、長時間にわたって討議を深めることができた。充実した議論によって、参加者すべてにとって有意義な研究交流ができた。 3、イスラエルにおける、ひいては近代思想史における「民族/国民〕概念を、根底から再考するために論考を執筆し、また、昨年度までにすでに発表していたブーバー論やアーレント論などもあわせた諸論考を土台として、それらをリライトし、単行本としてまとめた。これは、近現代の哲学思想史を「民族/国民/国家」の観点から厳格な批判的視点から読み直す試みであると同時に、それらの諸観念自体を徹底して問い直す作業でもあった。従来にない画期的な著作であり、今後の研究において重要な基礎となる。
|