1 前年度末に刊行した著書『ユダヤとイスラエルのあいだ-民族/国民のアポリア』(早尾貴紀著、青土社、2008年)と深い関係にある、ディアスポラ主義者のユダヤ人思想家ジョナサン・ボヤーリン/ダニエル・ボヤーリンの『ディアスポラのカ-ユダヤ文化の今日性をめぐる試論』(赤尾光春/早尾貴紀訳、平凡社、2008年)を翻訳刊行した。これを契機に、合評会およびシンポジウムを開催し、隣接分野の専門家からも参加をいただき、有意義な研究交流をもつことができた、とくに2月6日のシンポジウム「ディアスポラの力を結集する」については、録音の活字起こしを作成し、さらに当日不足していた討論を補って、書籍化する計画である。 2 上記著書の一部で論じたヘブライ大学とイスラエル建国問題を掘り下げて、論集『哲学と大学』(西山雄二編、未来社、2009年)の一章として「「ユダヤ人国家」の普遍性を追求したヘブライ大学の哲学者たち」を執筆した。近代国家建設に果たす哲学者の役割を考えるうえで、ヨーロッパ近代の一つの帰結であるイスラエル問題と、先住アラブ人との共存を目指したヘブライ大学創設者たちの試みと挫折の検討は重要な一視角を与える。 3 近現代世界における国家形態・国家意識の変遷と、その枠を越え出る移民や難民の問題を総合的に考えるために、若手研究者らを中心に論集を準備した。早尾貴紀・赤尾光春[編]『ディアスポラから世界を読む』(明石書店、09年5月刊行予定)。私自身は、全体の編集をすると同時に、「ディアスポラと本来性-近代的時空間の編制と国民/非国民」を執筆し、200年前から現在にいたる哲学史のなかでいかにして「国民/非国民」の概念区分が生じてきたのかを考察した。
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