今年度は、ヨーロッパ近代におけるユダヤ人排斥と無国籍化に関する論考および、パレスチナにおけるユダヤ人とアラブ人の対立と共生(の挫折)に関する論考を、各一本ずつ発表した。 前者は、近代国民国家の生成以降、たんなる「避難民」ではない、どこの国家にも属さない「非国民」ないし「無国籍者」が大量に発生し、その最大のグループがユダヤ人であったが、イスラエルという「ユダヤ人の国民国家」建国によって、今度はパレスチナ人が一転最大の無国籍者集団となったこと、そしてこの「非国民」問題は、日本も含めた現代世界になお根ざしており、共生の民族共存の課題がここにかけられているということを明らかにした。 後者は、イスラェル建国前にあったユダヤ人主導のパレスチナにおける二民族共存運動(バイナショナリズム)が挫折・消滅してずっと後、21世紀に入ってパレスチナ和平(パレスチナ国家の独立)が完全に隘路に陥ったことから、再度今度はパレスチナ側から別の形で、一国家内での平等な市民権を求める民族共存運動となって復興していく歴史的展開を分析した。 なお、資料収集および現状の調査、研究の現実的意義の確認などのために、イスラェル/パレスチナを訪れ、大学機関やNGOなどで研究交流をおこなった。
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