平成19年度の研究目的は、ゲルハルト・リヒターのフォト・ペインティング作品のもととなった写真を雑誌(具体的には週刊誌Stern、Quick、Bunte、Revue、Neueの5誌の1962-67年分)から探索し、雑誌の記事内容(本文)と比較した上で該当写真が担い得る「意味」を探るとともに、リヒターがいかなる「意味」を担った写真を選択したかを明らかにすることであった。 この目的の下、平成19年8-9月にベルリン自由大学で雑誌調査を行い、10月に第58回美学会全国大会にて口頭発表を行った。調査の不備と未了分を補うため、平成20年1-2月と3月に再度ドレスデンのゲルハルト・リヒター・アーカイヴおよびベルリン自由大学で調査を行い、その一次報告を「ゲルハルト・リヒターのフォト・ペインティング作品(1962-67年)に使用された写真群について」と題して『文学研究科紀要』(第125号)に投稿した(ただし2008年4月現在未公表である)。 本研究自体は資料探索というきわめて基礎的なものだが、昨今徐々に変化しつつあるゲルハルト・リヒターの初期作品の解釈史に大きな寄与をなすものである。かつてリヒターのフォト・ペインティング作品における主題選択は恣意的で無意味であると考えられていたが、本研究によって、そこに歴史的、社会的、思想的意味があったことが明らかにされるからである。
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