研究概要 |
平成21年度は、「研究実施計画」に記した通り、ゲルハルト・リヒターによるドイツ国会議事堂西側エントランス・ホールに設置されたガラス作品『黒・赤・金』(1998年)について調査、研究、発表を行なった。『黒・赤・金』は、タイトルが示すとおり、最終的にドイツ国旗の三色を使った抽象的作品として制作されたが、そもそもは「ホロコースト」写真をもとにした具象的作品の構想もあったことが、『アトラス』等に残された資料にうかがえる。従って、リヒターの『黒・赤・金』は、リヒターの代表的抽象作品であり、またガラス作品であるとともに、1960年代以来彼が断続的につづけてきたホロコーストの絵画化・作品化の試みを継承する作例ということもできる。 平成20年度後半から平成21年度にかけて、申請者が主として行なった研究は、1967年の『アトラス』に添付された強制収容所写真群の元となった書籍と、1997-8年にかけてリヒターによって集められたホロコースト写真の特定であった。1967年、1997年いずれの場合も、写真そのものは、8割方,いずれかのホロコースト関連書籍中に見出すことができた。従って一定の調査は行なうことができたが、しかしリヒター自身が1967年に参照した書籍名については、未だ不明である。また、ホロコーストにまつわる膨大な写真のそれぞれについて、たびたびその「出自」が問題となってきた経緯を考慮するならば、リヒターが使用した写真が書籍中に確認できたとはいえ、それが本当のところ、誰によって、どのような状況下で撮影されたものなのかといったところまで確定したとはいえない(部分的にはかなりの精度で判っている)。 平成20-21年度は、リヒター研究の一貫として、リヒターの学んだデュッセルドルフ芸術アカデミーについての調査研究を行い、その成果の一部をヨーゼフ・ボイス研究として発表した。
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