本研究は、アドルノが1961年にかかげた不定形音楽musique informelleの理念について検討することを通して、20世紀前衛音楽の歩みについて反省し、新しい音楽文化を構想するための議論を見出そうとするものである。そこで、不定形音楽の理念の背景となっている音楽思想および音楽作品を明らかにしたうえで、アドルノがこの理念をかかげるに至った事情を調査するとともに、アドルノの音楽美学のアクチュアリティを問いながら、アドルノ以後の不定形音楽のありかたを考察した。1、2008年7月にドイツ・ケルン大学の音楽学研究所を視察し、ドイツにおける音楽学の現状について聞き取りを行うとともに、新音楽関係資料の収集をおこなった。さらにまた「ダルムシュタット現代音楽国際夏期講座」を視察し、この制度の現状について調査をおこなった。2、2009年1月に東京藝術大学の図書館にて、文献・楽譜資料の調査収集をおこなった。近接するテーマの先行研究にあたることができた。3、『芸術のアカデミア』(2009年出版)にて論考「音楽の仮象性格」を発表。アドルノがマーラーやシェーンベルクを評価するときの基準となっていた「仮象批判」の意味を考察することで、不定形音楽の条件も明らかにできた。4、2009年5月に東京オペラシティでおこなわれるCOMPOSIUM 2009のプログラムのために、作曲家Helmut Lachenmann論を執筆。ラッヘンマンは、アドルノが思いもよらなかった方法で、アドルノの美学思想、ことに不定形音楽の理念を展開していることを明らかにした。
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