アドルノが1961年にダルムシュタットでの講演でうちだした不定形音楽の理念は、芸術音楽としての前衛音楽の在りかたを示唆するものとして、今日の作曲にも大いに示唆をあたえるところがある。一方において、アドルノのいう不定形音楽は、芸術音楽にとどまる。すなわち、構成と表現という二面において努力するとともに、作品として豊かな形式と内容をもつことを目指す。他方において、不定形音楽は、前衛音楽の精神をあらわすものである。すなわち、自由な構成によって、自由な表現をなしとげるとともに、自由な形式のうちに、真理内容とよばれるものを含んでいる。このことは、次のように根拠づけられる。作曲家は、素材にたいして決まった形式をあたえないならば、素材の働きかけに応じながら素材をあつかうだろう。こうして、素材のなかから形式が引き出される。このかぎり、引き出された形式は、作曲家の意図を超えたものであって、何らかの真理がそこに含まれることが期待される。
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