研究概要 |
聴覚文化論の理論的動向を摂取するとともに、美学・文化研究との接合を図るべく、京阪神の若手研究者による研究会を組織し開催した。前年度に引き続き現代アメリカ聴覚文化論の代表的成果、Jonathan Steme, 'The Audible Past' (Durham : Duke University Press, 2003)を精読し、翻訳刊行計画の進展を見た(研究会メンバーの事情により、年度内に刊行を行うことはできなかったが、引き続き翻訳作業が進行中である)。その過程で明らかとなった美学・文化研究との理論的接合点を踏まえつつ、メディア空間における音楽所有をめぐる社会意識を言説分析の手法で検討する作業を進行させ、「パクリ」概念の歴史について集中的な調査と検討を行った。その成果は、共同研究員として昨年度まで参画した国立国際日本文化研究センターの共同研究「文化の所有と拡散」での議論と関連させるかたちで、音楽を含む文化的生産:物の所有観念を「パクリ」概念の検討によって明らかにし、その生成と拡大について小活する論文(著書の分担執筆)として公刊された。本論文は「パクリ」概念の歴史的生成に関する最初の本格的な研究論文であり、これを叩き台に音楽をはじめとする文化所有をめぐる新たな議論の展開が期待される。さらに、聴覚文化論的な観点から所有・空間・メディアを検討した三年間の理論的研究を踏まえ、断片的に発表した成果を総括するものとして、現代的なメディア空間における音楽の所有・帰属をめぐる言説構造に焦点をあてた著書の執筆作業を進めている。
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