本年度は、作品調査に重点を置いた。中国製十王図として、金處士本(ボストン美術館所蔵3幅)と三重県・西蓮寺本(11幅)、日本製十王図として三重県・常住寺本(10幅)と京都・個人蔵本(1幅)、六道絵中に十王が描かれる14世紀の作例として、極楽寺本(3幅)と出光美術館本(2幅)の合計6作例に関する調査・撮影を実施した。特に今年度の調査の過程で新たに確認した京都・個人蔵本は、14世紀の作例と見られるが、三体の十王と不動明王や大日如来などの尊格が曼荼羅的構図で配置された、これまでに報告されていない図像構成の作例である。その儀軌的な解明は次年度以降の課題であるが、現時点では、密教寺院における十王図受容の様相を伝える作例と考えている。天台系寺院で使用された「焔魔天曼荼羅」の系統に位置づけ得る可能性がある新出作品である。 各々の調査で撮影した画像については、持物・姿勢・眷属・本地仏・付随する地獄のモティーフなどで図像的特徴を整理し、データベースの構築に着手している。 また、三重県伊賀上野市に所在する西連寺及び常住寺の作例は、当初木津川を通じた南都寺院との関わりが深いものと予測して調査に臨んだが、両寺に伝来する文書類や他の仏画などを含めて検討した結果、天台真盛宗の西教寺と関連する作例である可能性が新たに浮上した。特に常住寺本は、本地仏として『地蔵十王経』に説かれない大日如来が描かれているなど、他に類例の少ない図像的特徴も備えており、日本において定型化する以前の十王図像を伝える重要作例であることが判明した。
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