作品調査としては、京都・個人蔵「十王図」(1幅)、ベルリン国立アジア美術館蔵「十王図」(1幅)、同蔵「地蔵十王図」(1幅)を実施した。なお、交付申請書に記載したハーバード大学・サックラーミュージアム蔵「十王図」(2種類、合計13幅)に関しては、新型インフルエンザの影響で急遽渡航を中止する事態が発生し、年度内にこれを遂行することができなかった。研究期間外とはなるが、次年度以降に再度日程を調整し調査を実施したい。 十王信仰に関連する史料として、室町時代初頭の宮中及び幕府周辺における仏事を記録した『定勝院殿集纂諸仏事』(名古屋市蓬左文庫蔵)に着目、同史料に記載された追善・逆修・年忌供養・水陸斎における「十王図」の使用事例を分析した。その結果、応永二十年(1413)九月二十日に近江永源寺にて行われた逆修供養に、「閻魔法王、陰府十王」の像が使用された事例をはじめ、室町時代初頭の仏事における、十王信仰からの影響や十王の彫像・画像の使用状況が具体的に浮かび上がってきた。同史料が記された時期は、二尊院本「十王図」やその転写本である浄福寺本が成立し、十王図の図様が著しく和様化する時期とも重なっており、ここに残された記録は、社会的上層における使用事例と図様の変化の相関関係解明の糸口となる。この考察結果については、目下、学会発表の準備と論文執筆を進めている。
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