町絵師とは、宮廷・幕府・大名などに仕えず、市井において絵を描くことを生業とした人々のことを指す。これまでの美術史研究ことに近世絵画史研究においては、個々の作家や作品を主軸に研究が進展してきたため、相対的・総合的な考察が不十分であった。本研究では尾形光琳の活動状況を共時的視点から捉えることにより、江戸前期の町絵師の活動状況を明らかにすることを目的とする。第二年次にあたる本年度は、前年度にテキストデータ化を行った「光琳関係資料」(京都国立博物館・大阪市立美術館分蔵)について、一全体的な校正・検証作業を中心に作業を進め、データ整備と資料の補足を行った。文献等資料研究と同時に、「光琳関係資料」の画稿に含まれている画題(人物図・草花図)を中心に絵画作品調査を行い、その源泉として想定される土佐派・宗達派などの作品を比較参照しながら考察を進めた。またデータ公開にむけての問題点や方向性について、関連研究者等への聞き取り調査もふまえ、現在のハードウェアやソフトウェアの諸環境を鑑みて検討を行い、各種試行と準備を進めた。 共著論文集の一篇として発表した論文「尾形光琳筆「四季草花図」について」では、作品調査に基づき、光琳資料中の画稿類と比較検討を行い、作品の成立過程と表現の特質を明らかにした。制作後およそ300年が経過している「四季草花図」は、顔料の剥落や有機材料による彩色部分の退色が進行しており、作品制作の具体像を把握するためには、関連作品を含む実作品の詳細な調査が必要不可欠となる。作品調査と資料考察とを総合して、尾形光琳の草花図の特徴と18世紀初頭の草花図の需要と展開について例証した。
|