研究概要 |
本研究では,文人画家・田能村竹田の著書『竹田荘師友画録』を研究資料として取り上げる。本書には,竹田が親交した多くの魅力的な画人・文人たちが収録されるが,現在に至っては無名となった人物も多く,その書画の実態,文献資料は明確には把握されていない。従って本研究では,本書に収録される九州・山口地域の画人・文人たちの美術資料のデータベースを作成し,また現地調査を踏まえて収集したその情報をもとに,竹田の交友の実態や,各地の美術状況をより明確に把握することを目的としている。 19年度は,科学研究費補助金交付申請書に記載の研究実施計画に概ね基づき,作品調査,研究を遂行した。年度前半は,各地の学芸員,地域の郷土史家などの協力を仰ぎ,情報収集に努めた。また田能村竹田並びに関連画人等の研究に関する重要な資料である「竹田遺稿」に収録されている各詩詞文の現時点での可能な限りの年代設定作業を行い,その分類表を作成した。年度後半は作品の実地調査に着手した。調査対象の画人のうち,未だその画績が確認できないものもあるが,豊前の曽木墨荘,中津の田中田信など小規摸ながら各地域で顕彰され,大切にされている画人・文人も意外に多いことがわかった。本年度は,大分県地域の実地調査を主に進めたが,大分県立芸術会館が保管する調査対象画人の作品約20件を確認し,それらを一括して調査できたこと,また竹田と親交のあった豊後日田の豪商、森家の一族の画績について,天領日田資料館の保管する作品,また未公開の個人所蔵の作品を確認し,一部は調査を終えることができたことは大きな収穫であった。特に日田は,江戸時代には天領として栄え,強大な財力と先進的情報が溢れ,豊富な明清画が集まっていた土地でもあり,そこで育まれた森五石・春樹ら森家を中心とした日田の美術状況と田能村竹田との接点,影響関係なども今後のさらなる調査でより明確になってくると考えられる。
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