本研究は、文人画家・田能村竹田の著書『竹田荘師友画録』に収録されている文人(画人)たちの絵画作品を主とした美術資料データを収集することを一つの大きな目的とした。本書には、竹田が親交した多くの魅力的な文人たちが収録されるが、現在に至っては無名となった人物も多く、その書画の実態は明確には把握されていない。従って本研究は、本書に収録される九州・山口地域の文人たちの美術資料データベースを作成し、田能村竹田を取り巻いていた当時の絵画情勢を具体的に把握していくことを少しでも進めようとするものである。 両年度とも各地の研究者、学芸員等の協力を得て、調査対象画人の作品の所在情報を確認し、ほぼ計画通りに実地調査を進めた。実際の調査では、作品全図と詳細な部分図をデジタルカメラで撮影し、さらに実測による法量データを得た。調査後に、汎用PCソフトを用いて画像のレタッチ作業、データベース編集作業をおこなった。2年間の研究期間において、総計178件の絵画を主とした美術資料データを実地調査により収集した。調査作品には、未公開の個人所蔵作品や、公立美術館に所蔵されていても刊行物などに未掲載の作品が大部分であったため、そうした意味からも貴重なデータを収集することができた。 調査対象画人の中で、田能村竹田と特に深い交友をもった僧・雲華について、中津の正行寺をはじめとした各所蔵機関で、まとまった数を調査することができたため、『出光美術館研究紀要』14号において、年代順に調査作品を紹介するとともに、竹田との交友関係について整理し、調査成果を論文として公表した。調査対象画人のうち、未だその画績が確認できないものもあるが、豊前の曽木墨荘、中津の田中田信、下関の広江殿峰、秋水父子など、小規模ながら各地域で顕彰され、大切にされている人物も意外に多いことがわかった。また日田の森五石、春樹父子らの作品は、当時流行した沈南蘋の画風に学んだものが多く、竹田が青年期に制作した南蘋風作品のイメージソースは、日田の森家の人々との交友の中で得られた可能性が大きいことも実作品を通して把握できた。さらに調査においては、『竹田荘師友画録』中の竹田の評言と合致する作品が確認できたケースもあり、竹田が評価した同時代絵画の表現を具体的に認識することができた。また調査各地では、所在の明確でなかった竹田作品を確認することもあり、竹田研究に資する重要な作品については、研究成果の一部として今後、論文、学会発表にて公表していきたい。 以上のように、本研究によって『竹田荘師友画録』に収録される文人たちの多くの美術資料が把握される結果となり、田能村竹田に関連する基礎的研究は確実に一歩前進したものと考える。
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