本調査研究は、近代日本絵画史という枠組みの中で果たされた鉛筆というツールの役割について明らかにするものである。平成21年度までに、特に洋画に即して研究を進めてきたが、平成22年度はその過程で発見された「橘忠助氏旧蔵美術資料群」についてその資料群を整理し概要を報告した。同資料群は明治洋画史を先駆的に研究した西田武雄の旧蔵資料であり、実に内容の豊富なものである。最初期の研究実施計画には含まれてはいなかったものの、当該調査研究とも関係する内容が含まれていることから、同資料群についての考察をおこなった。特に、その中に含まれていた鉛筆画群について考察を加え、その内容の精査と美術史上の位置付けについて明らかとした。それは研究当初以来、中心的におこなってきた五姓田派研究に積み重ねるものであり、鉛筆というツールの重要性を別の角度から明らかとした。これにより、洋画史の中でも語られる機会も少なかった鉛筆という存在の重要性を浮き彫りにすることができ、ここから当時の画学生の日常的な修練の様子が垣間見られることを指摘するとともに、その学習内容を具体化した。そして、本調査研究の最終年度ということで、従来から計画していた報告書の刊行をおこなった。以上の考察に加え、鉛筆を普及させる一端を担った明治期の図画教科書群についての報告、これまでの調査研究の概要などを報告書にまとめた。特に鉛筆の画材としての存在意義について展望を示しながら、本調査研究では漏らした点についても言及し、今後の課題についても記した。特に現在時制への視点をも加え、デジタル化との競合も視野に入れながら、表現と身体の相関関係について示唆した。
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