江戸時代後期に開催された書画会は、絵師や書家、文人たちが諸芸を繰り広げ、その場に居合わせた享受者と身分を超えて交流を持った場として絵画史のみならず、国文学や日本史からも注目される。しかし従前は、江戸と京都で開催された事例が用いられるのみであり、他都市での開催事例に言及されることは極めて少なかった。 当該課題では、各地で開催された書画会にどのような人々が関わり、絵師の活動にいかなる影響を与えたのかを明らかにすべく、京都や大坂、西日本で開催された会の基礎情報を多く収集し、それらのデータベース化を目的とした。 本年度は前年度に引き続き事例の集成に努め、新たに数十例を知ることができた。特に注目すべきは、書画会に関わった人々を木版多色摺で描き出した資料「詩歌連誹琴棋書画茶花会図〔天保十一年間善光寺開催書画会〕」を見出したことである。従前知られていた書画会資料は引札か目録が大半であったが、このような肉筆ではない絵画資料の存在は、文字ではなく視覚的に会を記録する意図が強く、かつ印刷物であることから複数の人々に追憶すべき会と認識されていた結果であろうことがうかがわれる。 それらと並行して書画会データベースの構築を行った。当該データベースでは、書画会そのもの情報検索と書画会に参加した人々に属する情報を検索することができる。前者では、年月日、地域、開催場所などであり、後者の情報としては人名、出品作品名、人物や作品に付随する情報-居所、出身地、絹本紙本の別など-がある。このデータベースを用いて検索を行えば、わずかな資料で語られてきた絵師や書家の伝記に新たな条項を付加することができ、かつ会の趣旨を勘案すれば、それら人々がどのような交友関係の中に身をおいていたのかを知ることができ、創作活動の背景を知る上で意義のある資料群となる。
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