本研究の目的は古代東南アジアの三尊像図像の基礎データを集積・分析し、もって三尊像図像の成立と展開を解明するための端緒とすることである。特にタイのドヴァーラヴァティー、ミャンマーのビュー、モンの三尊像図像については、東南アジアにおける大乗仏教の広がりを明らかにする上で重要な資料であるため、平成20年度から平成21年度まで継続的な調査を行い、下記の成果を得た。 (1)本研究の協力者であるドヴァーラヴァティー美術の研究者と、これまでの調査資料について意見交換を行った。具体的には、東北タイにおけるドヴァーラヴァティー時代のヒンドゥー、仏教の図像が地域的習俗の中で変容する様相に焦点をあて、関連する資料の検討を行い、基礎データの充実に向け協力を得た。また、国内におけるドヴァーラヴァティー、ビューの三尊像図像を含む奉献板資料について共同調査、意見交換を行った。 (2)インド、パーラ時代の資料を中心に調査を行った。仏教の三尊像図像の起源はインドにあるが、特に仏教図像に大きな変化が起こる8世紀後半から9世紀、東南アジアの図像にもその変容が見られる。中でもバングラディッシュ国境ベンガル湾沿岸地域から出土した資料はピュー、ドヴァーラヴァティーに同系統の図像が多く、今後、ヒンドゥー・仏教の混淆、変容の過程を探り、比較研究する上で有益な資料を実見することができた。 (3)東北タイのドヴァーラヴァティー美術の図像に関係する作例としてベトナムのチャム彫刻の調査を行い、特に雲気文においてはカーラシン以北と近似する表現がみられた。具体的な交易ルートの検証は今後の課題とした。 (4)本研究対象であるドヴァーラヴァティー美術の展覧会がギメ美術館で開催された。フランス極東学院収集品を含む資料が一堂に会す貴重な機会を実見し、各国の研究者の研究成果が掲載された図録を参考資料として得た。
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