本研究は、中世に成立した連歌の百韻・千句に付された古注釈を網羅的に調査収集し、必要に応じてその翻刻資料を提供するとともに、各作品の古注釈の生成過程を明らかにし、古注釈がもたらす情報を、作品研究において最大限に利用しようとするものである。本年度は、前年度に翻刻を終えた『伊勢千句』の古注釈、七種類八本(第二種注、第三種注、第四種注、第六種注、名古屋市鶴舞中央図書館蔵本、甲子庵文庫蔵本、名古屋大学皇學館文庫蔵本、神宮徴古館蔵本)のうち、第二種注、名古屋市鶴舞中央図書館蔵本の翻刻確認作業を行った。また、既に『連歌古注釈の研究』に翻刻が公刊されている第一種注の内閣文庫蔵本についても、翻刻の確認が必要であり、原本の複写を取り寄せて進めている。 次に、本年度の研究課題である宗牧関係の百韻・千句の古注釈については、『宗牧独吟何人百韻』(天文十四年二月二十五日興行、発句「花の色もとりの音おしむ夕かな」)諸本の悉皆調査の結果、古注は三種あり、第一種注が宮内庁書陵部蔵桂宮本(桂宮本叢書第十八巻『連歌一』に翻刻)、第二種注が大東急記念文庫蔵本と天理図書館蔵本、第三種注が京都大学附属図書館谷村文庫蔵本に分類できることを確認し、未翻刻資料である第二種注、第三種注の翻刻を行った。各注釈とも、百韻の興行時期に近い成立と見られる質の高い注である。これについては大東急記念文庫本の影印が『大東急記念文庫善本叢刊中古中世篇連歌二』に収録されるのに伴い、同書の解説を執筆した。他に、細川幽斎の連歌について、宗牧への傾倒ぶりや『宗牧連歌集』編纂の事情などに触れて論文としてまとめた。
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