『うつほ物語』、を王朝文化の枠組みの中で捉えた論文「うつほ物語の通過儀礼」は、題名通り、『うつほ物語』に頻出する産養、元服、裳着、葬礼などの通過儀礼について、当時の風俗・慣習などの実態を視野に収めながら、生と死にかかわる、物語固有の論理を析出したものである。従来は、当時の風俗の単なる反映として理解されがちであったこれらの記述を、物語の方法として捉え直し、評価した点に新たな意義がある。 また、口頭発表および論文「日本文学に見る国際交流一遣唐使をめぐってー」は、『うつほ物語』を中心に、遣唐使と王朝文学のかかわりを論じたものである。中国におけるこの発表は、王朝文学が中国文化の多大な影響にあることを中国の人々にあらためて伝えた、有意義なものであり、日中文化交流促進の一助となった。なお、この発表で示した、承和の遣唐使と俊蔭漂流譚の関連については、論文「清原俊蔭と小野篁一『うつほ物語』発端の基盤」でさらに掘り下げ、また藤英(藤原季英)への篁の投影も明らかにした。これらの論考は、研究課題における二つの柱、すなわち作中人物に関する研究と、物語と歴史の交渉についての研究を併せ持つ性格を有している。 なお、こうした論文の発表と併行して、作中人物に関するデータの整理も進めている。
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