一つの柱である作中人物の研究については、各登場人物の物語における系図・官位・物語における事跡などについて、データを整理・分析し、問題点を検討中である。もう一つの柱である『うつほ物語』における歴史意識と思想についての研究に関しては、作中の准拠に関する事項をピック・アップし、同様にデータの整理・分析を進めている。これらの情報が整理され、「人物総覧」「准拠総覧」のような利用しやすいかたちに纏められるには、もう少し時間を要するが、以後の『うつほ物語』研究に資するところが大きいと予想される。近時の『うつほ』研究は歴史学・文化学への傾斜を示しつつあり、そうした動向にも呼応していると思われる。周知のように、『うつほ』は、作者の問題もあってか、男性官人たちの親密な絆・交流を随所に描いている。この先蹤として『伊勢物語』の渚の院に展開される惟喬親王・業平らの交流が挙げられる。論文「伊勢物語・惟喬親王章段の主題と方法」は、82・83・85の三章段の主題と方法について論じたものであるが、作中和歌の解釈、白氏文集の引用の指摘など、新しい見解を示し得たと考える。『うつほ』研究の副産物ともいえよう。
|